地元の方にその土地の魅力を語っていただくインタビュー記事
地域の新しい魅力を知り、旅先の参考になりましたら嬉しいです!
東日本大震災と原子力発電所事故から12年。
福島県浜通り(※1)に位置する大熊町は、着実に復興への道を歩んでいます。
福島の「今」を知ることは、変化や逆境への向き合い方(人生観・生き方)にヒントがあるはずです。
今回は福島県大熊町について、紹介します。
後半では、復興支援員として神奈川県から移住したドリーさんに話を伺いました。
※1 浜通りとは福島県の東側、太平洋に面したエリアのことを言う
東日本大震災の影響が今も残る大熊町
大熊町は福島県の浜通りエリアに位置しています。
町内に東京電力福島第一原子力発電所の1号機〜4号機があり、東日本大震災では原子力発電所の事故で大きな影響を受けたエリアです。
2019年に一部区域で避難指示が解除、2022年には他の区域でも避難指示が解除されましたが、まだ帰還困難区域(避難指示)が残っています。
大熊町は他の町と比べて避難指示の解除が遅かったこともあり、インフラの整備が整っていません。
大きなスーパーや日用品店は町になく、コンビニもデイリーヤマザキたった1つだけ。
人口は震災前は12,000人ほどに対し、現在は1,200人。
この中には復興に関わる移住者が多く、当時の住民はほとんど帰ってきていない状況です。
また、観光にも影響がでています。
大熊町はうつくしま百名山にも選ばれた日隠山や断崖が続く海食海岸など、自然豊かな観光資源に恵まれています。
しかし、帰還困難区域内にある観光地は立ち入りが制限されている状況です。
そのため、訪れる際には最新の状況をご確認ください。
復興の道を進む大熊町
そんな大熊町は今、復興に向けて動いている真っ最中です。
かつての中心地である駅前に飲食店、コンビニ、産業交流センターを含む複合施設ができるほか、図書館や病院の計画も進んでいます。
また、復興支援員(※2)の制度も始まり、移住者も増えてきています。
※2 復興支援員とは地方公共団体が実施する震災からの復興に向けた、人的な支援の取り組み
2022年7月には小学校をリノベーションしてできた起業支援拠点「大熊インキュベーションセンター」が誕生。
ここには大熊町を実証・実装の場としてさらなる成長を考える企業や起業家、中期的に大熊町に拠点を設置する企業などが集まっています。
また、入居者、町民、来町者が誰でも自由に利用できる交流スペースがあり、共創する場としても機能。
大熊町では次々と新たな挑戦が芽吹いており、日に日に姿が変わっています。
震災を伝える新たな観光
大震災を契機に起こった出来事を歴史として共有し、未来に継承するために指定された震災遺産というものがあり、新たな観光資源として注目されています。
大熊町にある震災遺産は中間貯蔵施設。
これは、除染によって発生した除去土壌や廃棄物などを県外で最終処分するまでの間、安全に保管するための施設です。
隣接する双葉町と東京電力福島第一原子力発電所を取り囲む形で整備されています。
その面積はなんと、東京ドーム340個分。
東京都渋谷区とほとんど同じ広さで、大熊町の約14%を占めています。
※中間貯蔵施設見学の際は、事前予約もしくは中間貯蔵施設見学会に参加する必要があります。
詳しくはホームページをご確認ください。
復興支援員として移住したドリーさん
今回お話を伺ったドリーさんは、2023年11月に復興支援員として大熊町に移住してきました。
ドリー誠
神奈川県横浜市出身。
派遣会社で社員として勤めていた傍ら、原発事故の被害を受けた浜通り地方の今を見る国際交流ツアーに2022年8月からツアーカメラマンとして参画したことをきっかけに移住を決意。2023年11月に大熊町の復興支援員として着任した。
現在は大熊インキュベーションセンターで働きながら、休日はカメラマンとして地域のイベントなどの撮影を行う。
ー平日は大熊インキュベーションセンターのスタッフ、休日はカメラマンとして大忙しの毎日かと思いますが、現在のお仕事について詳しく教えてください。
大熊インキュベーションセンターのスタッフとしては、大きく4つの仕事をしています。
まずはお客さん対応です。
交流スペースで困っている人の対応をしたり、興味を持っている方への施設案内をしたりしています。
他には、備品管理や、施設のイベント、入居企業の情報発信や支援のための事務作業など、施設運営に関する様々なことをさせていただいています。
休日は地域のイベント撮影を行っています。
元々は趣味だったのですが、姉の結婚式の撮影をして以来、写真にのめり込んでしまい、自分の表現方法で人の思い出を残すためにカメラマンになりました。
この地域にはイベントカメラマンが少なく、毎週どこかでイベントが開催されていることもあり、ありがたいことに休みがない状況です…笑
イベントではたくさんの人の話を聞き、考えを吸収できるのがとても楽しいです。
今後は地域で活動している人を特集し、写真展を開ければと考えています。
ー企業の拠点であることや、地域で行われているイベントなど、さまざまな面から町を見ていると思いますが、ドリーさんの思う大熊町の魅力はどんなところですか?
1つ目“何でもできてしまうこと”ですね。
例えば、町内のアパートで月1回バーベキューをするイベントがあるんです。
元々はフランス人の住民を楽しませるために始まったものだったそうですが、周囲の人たちが美味しい食材を持ってきてくれるようになり、バーベキューの噂が広まって、徐々に規模が大きくなってきました。
1つのコミュニティで行うバーベキューでここまで大規模なものは、横浜では経験したことがなかったので、びっくりしましたね。
他には、屋根のない本屋さんというのもあります。
ここは震災前は地元の小学校6年生だったオーナーが、「必死で生きている人たちが、ほっと一息つける場所をつくれないか」とおばあちゃんの跡地にオープンした場所。
何もない町だからこそ、新しいことにどんどんチャレンジできるんですよね。
2つ目は“人”です。
この地域で出会うのは、面白い人や心が豊かな人ばかりです。
大学を休学して大熊町で働いている人や、毎週関東から車で出社しているアルバイト学生もいて、今までにない刺激をもらっています。
ー私からするとドリーさんも相当変わっていて面白い人なんですが…笑
これは移住者が多いことも影響していると思います。
私は大熊町への移住が初めてのひとり暮らしで不安な気持ちもあったのですが、皆さんのおかげで毎日が楽しいですね。
ー移住したからこそ感じる魅力ばかりですね!観光で訪れた方に行ってほしい場所も、ぜひ教えてください。
震災遺産に行くのももちろん良いのですが、復興に向かう今の大熊町もぜひ見てほしいですね。
ー「今の大熊町も見てほしい」は大切なメッセージですね。
地元のローカルの飲食店であれば「おしだ」がおすすめです。
ここはランチのみの営業ですが、新鮮な旬の魚介食材を使った料理を味わうことができますよ。
また、このあたりは元々フルーツ産業が盛んな地域で、かつては「フルーツの香り漂うロマンの里」というキャッチフレーズで親しまれていました。
特にキウイの生産が有名で、自宅で栽培する方も多かったみたいです。
2019年におおくまキウイ再生クラブが結成され、町内のキウイ圃場にて誰でも参加できる作業会が実施されています。
都内のイベントに出展もしていますので、ぜひ参加してほしいですね。
※イベント情報は下記HPで告知されています
ードリーさんは、今後大熊町がどうなっていくと思いますか?
大熊町は多くの避難区域が解除されたのが2年前だったこともあり、インフラ整備がこれからです。
住宅やお店が取り壊され、更地に近い町に新しい施設がいくつも建設されている様子は、日本中どこに行っても見られない景色だと思います。
最近であれば、町営住宅が完成し、住宅前にはスーパーの建設が始まりました。
毎月のように、道路の通行止め情報が変わり、Googleマップが役に立たない時もあります。
毎日、刻一刻と変わる風景に、復興に向かっていくスピード感と面白さを感じています。
他の地方と違って、大熊町は全員が「受け入れてもらった」経験があることが大きいと思うんです。
天保の飢饉で住民が亡くなったり、原発ができて東京電力からの出張族の人が増えたりと、元々移住者に寛容な風土でしたが、住民が避難生活で移住をした経験によって更に寛容になっていると思います。
そのため、移住や町外の会社との協業がしやすい土地なんです。
「町民と外の人が連携をして、ゼロから一緒に新しい町を作っていく」。
こんな町は他にないと思います。
間違いなく数年後はパワーのある町になりますね。
インタビューを終えて
インタビューを通して、ドリーさんが町の明るい未来を楽しそうに語る姿が印象的でした。
大熊町の復興への道のりと、そこに関わる人々の情熱が伝わってくる取材となりました。
東日本大震災から12年。
私は、福島県の復興が大きく進んでいるものと想像していました。
しかし、現地を訪れると、違っていたのです。
放射能の影響で今なお通行止めが解除されていない道路、震災の傷跡を残すがれき、津波によって一変した広大な平野。
これらの光景は、復興への道のりがまだまだ途中であることを物語っています。
しかし、それと同時に、大熊インキュベーションセンターや新しい町営住宅・商業施設を建設中の様子から、着実に復興への道を進んでいることも感じられました。
大熊町の現状は、震災の影響の大きさを改めて感じさせると共に、復興に向けた人々の強い意志と努力を感じさせるものでした。
私にできることは、この現状を知り、伝えること。
ぜひ皆さんにも大熊町を訪れ、その変化と挑戦の姿を自分の目で見ていただきたいと思います。
大熊町へのアクセス
<電車>
東京駅→大野駅 JR常磐線で約3時間
仙台駅→大野駅 JR常磐線で約1時間30分
<車>
東京→大熊IC 約3時間(首都高速 / 常磐自動車道 経由 約250km)
仙台→大熊IC 約1時間30分(常磐自動車道 経由 約100km)
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